大手の監査法人に所属していたころは、会計基準の改正等があった場合にはそのアップデートのための研修等が用意され、それほど自分で気にしなくてもそれなりに知識のアップデートが出来ていたような気がします。ところが、大手法人を退職して独立するとそういう研修が自動的に提供されることもありませんので、自分で勉強する時間が必要になってきます。という訳で2021年3月期から適用される会計基準等についてまとめてみようかと思います。
2021年3月期から適用される会計基準等としては以下の3つが挙げられます(早期適用可)。
■ 会計上の見積りの開示に関する会計基準(企業会計基準第31号)
■ 会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(改正企業会計基準第24号)
■ 監査上の主要な検討事項の導入(監査基準の改正)
開示関係が多いですね。まず、「会計上の見積りの開示に関する会計基準」ですが、これは財務諸表の作成にあたって会計上の見積りが必要な場合、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目についての開示を充実させることを趣旨としています。具体的には以下の項目が注記例としてあげられています。
1.項目名
会計上の見積りの内容を表す項目名を注記する。
⇒何の話しか明確に。
2.項目名に加えて注記する事項
(1)当年度の財務諸表に計上した金額
(2)会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資するその他の情報
⇒具体的な内容や記載方法は開示目的に照らして企業が判断する。
3.財務諸表利用者の理解に資するその他の情報 (2.(2))の例示
(1)当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法
(2)当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定
(3)翌年度の財務諸表に与える影響
⇒あくまで例示です。
留意事項として、以下のようなあたりでしょうか。
▼ 注記するかどうかの判断にあたっては当年度の財務諸表に計上した金額に重要性があるものに着目するのではなく、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがあるものに着目する。例えば、当年度減損損失を認識しなかったとしても、翌年度の重要な影響を及ぼす場合には当該固定資産を開示する項目として識別する可能性がある。
▼ 本会計基準の適用は表示方法の変更として取り扱う。但し、比較情報には記載する必要はない。
具体的な開示はIAS第1号第125項を参考にこの基準が出来ているようですので、IFRSで開示している会社の注記や、2019年に金融庁から出ている「記述情報の開示の好事例集」の「5.重要な会計上の見積り」が参考になります。
次に、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」ですが、こちらは以前からあった「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」の改正になります。会計基準の名称自体が変わってますね。この基準のポイントとしては、特定の会計事象等に対して適用しうる具体的な会計基準等が存在しない場合にも、重要な会計方針の注記が必要である点が明確化されたことでしょうか。
最後に「監査上の主要な検討事項の導入」ですが、これは以前にこのブログでも記載した監査報告書の様式変更に伴い追加されたものになります。監査上の主要な検討事項の記載は監査プロセスの透明性を向上させ、監査報告書の情報価値を高めることを趣旨としており、具体的には以下を記載することになります。
▼ 冒頭の記載
監査人は「監査上の主要な検討事項」の見出しを付した区分を設け、当該区分の冒頭に以下を記載する。
①監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項である旨
②個別に意見を表明するものではない旨
⇒定型的な記載
▼ 個別の記載
個々の監査上の主要な検討事項に適切な小見出しを付して以下を記述する。
①関連する開示がある場合は当該注記を参照
②内容
③決定した理由
④監査人の対応
⇒会社ごとに異なる記載
監査報告書の様式変更により、監査報告書の記載誤りが原因で訂正報告書がいくつかでているようです。これは会計士にとってかなり痛いミス(クライアント様にご迷惑をお掛けする、単純に恥ずかしい。。。)ですので、気を付けたいですね。
2020年はホントに大変な年になりましたが、残すところわずかです。本年も格別のご高配を賜りありがとうございました。皆様が良いお年をお迎えくださることお祈り申し上げます。
(引地 健児)