スポーツと統計

 先日、野球の国際大会である第5回WBCが開催され、日本の3回目の優勝により日本中が大盛り上がりとなりました。初の日系選手のヌートバー選手が代表入りすることや、大谷選手の大活躍など、話題に事欠かない素晴らしい大会でした。

  印象的なプレーは沢山ありますが、大谷選手が準々決勝のイタリア戦でセーフティ・バントをしたことも話題になりました。そこで、今回はよく野球ファンでも話題になる「バントは戦術として有効か?」についてお話したいと思います。(ここで記載する「バント」は犠打として1アウトと引き換えにランナーを進塁させる手法をいいます)

 近年の野球ではメジャーリーグを中心に、セイバーメトリクスと呼ばれる野球統計を用いて客観的に分析する手法により、選手起用や采配に活かす事が進んでいます。これにより客観的な守備の上手さを示す指標UZR、強打者の指標OPSなど以前よりも詳細なデータが観測できるようになりました。バントについても統制的に分析がされており、以下のような結果が示されています。

 上段に得点期待値(該当するシチュエーションにより平均何点入ると期待されるか)を記載しています。ノーアウト一二塁のシチュエーションにおいて、バントを用いない場合にはその回に1.39点が入るということがわかります。一方で、そのシチュエーションから送りバントをした場合には、その回に1.34点が入るということになり、送りバントをした場合には、0.05点期待値が低くなることになります。アウトカウント、塁上のランナーにかかわらず送りバントをした方が、期待値が低くなることがみられます。

 得点確率(少なくとも1点入る確率)はどうでしょうか。ノーアウトで二塁にランナーが存在するシチュエーションにおいては若干、得点確率が高くなりますが、それ以外では低くなることがみられます。プロ野球以外でも高校野球の甲子園大会でもほぼ同様の統計結果がみられバントの有効性は低いと考えられています。

 では、バントは無意味な戦術といえるのでしょうか。別のデータとして女子硬式野球の全日本選手権のものがあります。試合数が少ないため統計としてはプロ野球のものよりも不正確であると考えられますが、ノーアウトのシチュエーションではバント戦術をとった方が、期待値、得点確率も上がっていることがみられます。

 この結果から推測されるのは、打力の高いプロ野球チームや甲子園出場校では、打率、長打、連打の可能性があり、バントにより1アウトと引き換えに高得点や得点チャンスを減らすことが不利になるのに対し、打力の低いと考えられる女子野球では、ランナーを得点圏に進めて1本のヒットにかけた方が有効であるといえるのではないでしょうか。

 これらのバント戦術から読み取れるのは全体として有利ではない手法でも、対象や適用する状況においては有効な場合があるということです。我々のような会計、コンサルティングの業界においても統計による分析や、他社の平均数値などがよく用いられます。また、企業経営においても様々な統計データを用いて経営分析を行い意思決定に活かすことがありますが、バント戦術と同様におかれている状況においては、他社や統計の結果と異なる可能性があるということが考えらえます。

 我々も数字を取扱う者として、誤った決定をしないためには置かれている状況をよく理解して分析することを心掛けたいと思います。                         原田 礼造

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